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福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)573号 判決

控訴人 村山忠男

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 小野山裕治

被控訴人 村山水産株式会社

右代表者代表取締役 村山三男

右訴訟代理人弁護士 村田利雄

同 真鍋秀海

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。当事者間の福岡地方裁判所昭和四三年(ヨ)第九二五号新株発行差止仮処分申請事件について同裁判所が昭和四三年一一月二五日なした仮処分決定を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係≪省略≫

理由

被控訴会社が、昭和四三年一〇月三〇日開催の取締役会において、記名式普通株式三万四、〇〇〇株を、一株の発行価額を金七〇〇円、払込期日を同年一一月二七日と定め、被控訴会社の取引先に割当て発行する旨の新株発行の決議をなしたことについては、当事者間に争いがない。

しかるところ、控訴人らより被控訴会社を債務者として、福岡地方裁判所に右決議に基く新株発行差止の本件仮処分申請が提起され(同庁昭和四三年(ヨ)第九二五号として係属。)、同裁判所が昭和四三年一一月二五日右決議に基く新株の発行を差止める旨の仮処分決定をなしたこと、次いで右決定に対する本件異議事件につき原審が昭和四四年七月三一日右仮処分を取消す旨の判決をなしこれに仮執行宣言を付したことは、一件記録に徴し明らかである。

しからば、右原判決により新株発行の障害が除去され、被控訴会社はいったん停止した発行手続を続行し得るに至ったというべきところ、右原判決言渡後、被控訴会社が、前示取締役会における新株発行の決議に基づき、記名式普通株式三万四、〇〇〇株全部の発行を済ませ、同年八月一日、その登記を了したことについては、当事者間に争いがない。

しかして、新株発行の差止請求は、違法ないし不公正な新株発行により株主が蒙る不利益を事前に予防する救済手段であるところから、新株が発行されてしまえば、たとへそれが訴訟係属中であっても、差止請求権は目的を失い、新株発行差止の仮処分申請や本案の訴は利益を欠き不適法となるものと解せられる。けだしその後新株発行差止の仮処分やその本案判決がなされても、そのことによっては既になされた新株の発行を無効ならしめるものではないからである。また、新株発行が、差止の仮処分を解消する異議による仮執行宣言付仮処分取消判決の言渡後確定前になされたものであったとしても、右の結論に消長をきたすものとはいえない。

してみると、控訴人らの本件仮処分申請は、被控訴会社の新株発行により、もはやその目的を失い、申請の利益を欠くに至り、不適法となったものといわなければならず、したがって被保全権利の存否につき判断するまでもなく、福岡地方裁判所昭和四三年(ヨ)第九二五号仮処分事件につき同裁判所が昭和四三年一一月二五日なした新株発行差止の仮処分決定を取消し、控訴人らの本件仮処分申請を却下すべきものである。結局これと同趣旨の原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 藤島利行 前田一昭)

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